昔から「手当て」という言葉どおり、手を当てることで症状を和らげる方法があります。手のひらをそっと当てるだけで、痛みが和らぎ、気持ちが落ち着く。そんな経験をされたことがあるでしょう。

これはいったいどういう仕組みで起こるのでしょうか。

以前の記事で、皮膚にはさまざまな働きがあることを書きました。

手のひらも皮膚の一部ですが、この皮膚が触れることによって、触れられた方の皮膚に何が起こるのでしょうか?

皮膚は、何かに触れることで高い周波数の波が生じるのだそうです。つまり、振動する、ということです。

ヒトは、他者に触れられることで心身に大きな影響を受けますが、そのメカニズムについて、これまでは皮膚にある触覚受容器によってとらえられた刺激が神経を伝わり、脳に届く、とされてきました。

ところが、始まりは神経ではなく、ひとつひとつの皮膚細胞の反応からだということが分かったわけです。触れることで高い周波数の波が生じる、ということは、その振動の持つ波長が関係しているのかもしれません。

ひとつひとつの細胞の中で、カルシウムのイオン濃度が常に変化し、それによって電位の変化が起こります。実は、生命誕生の瞬間である受精にも、このカルシウムイオン振動が関係しています。生命反応にはカルシウムイオンがとても重要ということですね。

皮膚の電位は脳よりも1000倍も高いというから驚きです。皮膚のカルシウムイオンの変化によって起きた電位が隣り合う細胞へと伝達されて、触れられたという情報が伝わるようです。

他人の手で優しく触れられると、このような刺激から何が起きるのでしょうか?
俗にいう「幸せホルモン」が分泌されるとも言われます。この「幸せホルモン」の正体は何かというと、「オキシトシン」というホルモンです。

このオキシトシンは、「脳の視床下部で産生され、下垂体後葉から分泌され、末梢組織では主に平滑筋の収縮に関与し、分娩時の子宮収縮や乳腺の筋線維を収縮させて乳汁分泌を促すなどの働きを持つ」とされてきました。私が学生のときも、そのように教わりました。

確かに、女性の妊娠・出産に関わる重要な機能を持っているのですが、実は近年の研究によって、それだけではないことが分かってきたのです。例を挙げると、

・他者との相互作用の促進
・抗ストレス作用
・排出効果

などがあります。

自分の意思とは関係なく自律的に働く神経である自律神経には二種類あります。

一つは交感神経で、危険が迫ったようなときに働き、「闘争か逃走か」反応とも呼ばれる、闘うか、そこから逃げるか、という二者択一的な手段で対処します。

これとは正反対の働きをするのが、副交感神経ですが、この働きを『人は皮膚から癒される』の著者、出口創氏は「安らぎと結びつき」反応と呼んでいます。

オキシトシンの働きというのは、まさにこの「安らぎと結びつき」反応を起こしていると言えます。

子どもがスキンシップを求めるのは、本能的にこの働きを求めているのでしょう。妹や弟が生まれたときに赤ちゃん返りをするのも、そうやって心を安定させようとしていると考えられます。

大人になってもマッサージは非常に心地よいものですが、人に触れられるだけでなく、ペットを撫でることでも心地よくなります。撫でられているペットのほうも気持ちよさそうですよね。これはお互いにオキシトシンが分泌され、結びつきを深めているわけです。

それだけではなく、アニマルセラピーというものがあるように、動物をかわいがることが病気の克服にも役立つのです。心を落ち着け、前向きな気持ちにさせてくれ、免疫も上がるわけですね。

私の知り合いにも、犬を飼うようになってから心身の調子が良くなり、家族の仲がとても良くなったというかたがいます。

他人とのスキンシップ、ペットなどをかわいがる、ということができないときは、どうしたらよいのでしょう?

そもそもの皮膚の働きに立ち返ってみれば、自分で自分の身体を撫でてやる、それだけでもオキシトシンは出るのです。マッサージの技術などなくても、腕や脚を撫でたりさすったりする、軽くたたく。それだけで緊張がほぐれ、周りを見る余裕ができるでしょう。

そしてさらには、実際に撫でたり触ったりしなくても、ペットを見て「かわいい」と思うだけでオキシトシンは分泌されるのだそうです。

「ああ、癒されるぅ!」と感じているとき、あなたの下垂体からはオキシトシンが出ているということですね。

ペットを撫でたり触ったりすることでオキシトシンが出て愛情が深まり、「かわいい」「愛しい」と思うことで、さらにオキシトシンが分泌されて結びつきが深まる。ペットをかわいがる人が多いのもうなずけますね。

外出自粛やソーシャルディスタンスで、他者との触れ合いが少なくなる状況においても、工夫次第で「幸せホルモン」のオキシトシンを上手に出して、ハッピーな毎日を過ごしましょう。