私がホメオパシーの道に進もうと決断した、最後の一押しは『統合医療への道-21世紀の医療のすがた』という本でした。今見てみると、2000年の発行になっています。

私がホメオパシーに出会ったのは、この本が出版される少し前くらいでしょうか。現代医療の向かおうとしているところに希望を見出せず、だったら自分は何をすべきか、自問自答を繰り返していました。

最初に「ホメオパシー」という言葉に出会ったのは、アロマテラピーを学んでいるときでした。植物療法と一部重なるところがある、というような形で名前だけ紹介されていました。

次に出会ったのは、シュタイナー医学の芸術療法のワークショップの中でした。これも、「ホメオパシーというものがある」という程度の講師の言葉でしたが、その講師が紹介してくださった本が、先ほどの『統合医療への道』でした。

この本の中では、21世紀の医療の三本柱として、オステオパシー、ホメオパシー、シュタイナー医学が挙げられていました。オステオパシーとは、アメリカ人医師スティルによって19世紀半ばに考案された骨調整法であり、患者のエネルギーバランスを整えることができます。当時、下の子供が生まれるころでしたので、勉強を進めるにあたって実技の比重の大きいオステオパシーは難しいと判断しました。

ドイツ人の思想家教育者・ゲーテ研究家であるシュタイナーは、ヨーロッパ神秘主義の伝統を背景に知の総合体系としての「人智学」を確立し、教育、農業、芸術、建築など、多岐にわたる分野にわたっていました。シュタイナー医学もそのひとつであり、その中にはホメオパシーが取り入れられています。それならば、ということでホメオパシーを学ぶことを決心したのでした。

当時、代替医療、補完医療、ホリスティック医学、統合医療など、さまざまな言葉が飛び交っていました。『統合医療への道』の中では、補完・代替医療という言葉は、それまでの西洋医学に変わるもの、あるいは補うものとして使われています。西洋医学一辺倒であったことに問題を感じて補完・代替医療が生まれてきた、というか、それらが元々あったということに気づいた、という方が正しいのです。

補完・代替医療と呼ばれているものは、そのほとんどが伝統医学としてそれぞれの地域で脈々と受け継がれてきたものです。一方の西洋医学は、100年そこそこの歴史の浅いものですから、さまざまな問題が生じてきても不思議はありません。

その西洋医学と、補完・代替医療を柔軟に使い分けていってはどうか、というところから統合医療という言葉が生まれてきます。そして、その先に心の問題をより考慮した「ホリスティック医学」がある、と述べています。

この辺りの考え方は人によってさまざまであろうと思います。ただ、ちょうどこの本が書かれる少し前、1998年にWHOでは健康の定義について、新しい提案がなされました。

Health is a dynamic state of complete physical, mental, spiritual and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

ぜひ、「プロフィール」のページに書かれている現在の定義と比べてみてください。

まず、静的に固定した状態ではないということを示すdynamic という言葉が加わったのですが、どのように捉えたらよいでしょうか?

私たちは、周りの環境の変化に対応しながら生きています。決して固定した状態ではなく、環境の変化に応じて、その状況に相応しい心身の状態を臨機応変に作り出しながら生きているわけですね。

また、spiritual という言葉が加わりましたが、これは、人間の尊厳の確保や生活の質を考えるために必要で本質的なものだという観点から、提案されたと言われています。生きがいや宗教をも含めた本質的な部分も健康に関与しているということです。

この提案は、WHO執行理事会で総会提案とすることが賛成22反対0棄権8で採択されましたが、現行の健康定義は適切に機能しており審議の緊急性が他案件に比べて低いなどの理由で、審議入りしないまま採択も見送りとなったままになっています。この提案こそ健康の本質的なところを表現していると思うのですが、20年以上経った今も変わっていないのは、残念なことですね。

先日、「健康と癒し~医療のパラダイムシフト~」という講演会で、アメリカの統合医療クリニックで診療に当たっているパーネル 美紀先生のお話を伺うチャンスがありました。

その中で新鮮だったのが、One Healthという言葉でした。

WHOが2019年に出した世界の健康を脅かすトップ10を見てみると、6つが感染症関連、2つが社会・環境・エコロジーの問題、あとの2つが慢性疾患とプライマリ・ケアになっています。感染症は新興国の問題のような印象がありましたが、今世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス感染のことを考えると、全世界の問題であることを、身をもって理解できます。

そして、これらの感染症の多くが人獣共通感染症であるということ。

人間とは生きた開放系のシステムであり、人間の健康は、環境・動植物の健康に依存するものである、ということが分かります。

したがって、人間と動物と環境の健康を結び付けて「ひとつの健康 One Health」として考えましょう、ということです。そこには、医師のみならず、獣医や環境専門家、政府などのポリシー・メイカーがひとつになって関わっていく必要があるわけです。

そこで扱う問題としては、動物の健康、抗生剤耐性、食の安全、人獣共通感染症、環境、慢性病、メンタル・ヘルス、職業上の安全などすべてが含まれます。

統合医療 integrative medicine も、ここまで来たか、と思いました。

新型コロナウイルス感染症が世界中で拡大する現在、そんな「医療のパラダイムシフト」の重要性をひしひしと感じます。