新型コロナウイルス感染で重篤化した症例について、現場の医師からは「まるで高山病のようである」など、普通の肺炎では説明がつかないような病態がみられているという報告が相次いでいます。

ほぼ無症状の人もいれば、重篤になって死亡する人まで出てくる。その機序として、サイトカインストームが起こっているのではないかとも言われています。免疫系のバランスが乱れ、一旦進み始めてしまうと、暴走してブレーキがかからないような状態です。この重症化の引き金を引くのが何なのかはまだ分かっていません。

ただ、炎症が起こったとしても、できるだけ炎症を進みにくくするような状態に自分の体を整えておく必要がある、ということは分かると思います。現状では、私たちにできるのはそういうことです。

今回の新型コロナウイルス感染症では、何らかの機序で大きな酸化ストレスがかかる、ということが起こっていると考えられます。それに対処するためには、体内の抗酸化システムをしっかり整えることが重要だと思われます。

私たちの体は、さまざまな生命活動に必要なエネルギーを得るために酸素を要しますが、そのエネルギー産生の過程でフリーラジカルが生じ、細胞や組織に有害な作用を及ぼします。

そのフリーラジカルから体を守るのが抗酸化システムの重要な仕事になります。フリーラジカルが組織や細胞を攻撃する前に、これを消去する物質(抗酸化物質)の集団、それが抗酸化システムです。

この抗酸化システムを構成するおもな抗酸化物質には、ビタミンC、ビタミンE、コエンザイムQ10、リポ酸、グルタチオンがあり、それらがダイナミックに相互作用を起こしながら共同して働いています。つまり、ネットワークを形成して相互に作用して増強し合い、生体内のバランスを維持しています。また、個々の抗酸化物質がフリーラジカルを消滅させて効力を失った後、他の抗酸化物質によって相互に再生し合う、という特別な作用もあります。

ビタミンEがフリーラジカルと反応してその毒性を失わせると、自身はフリーラジカル(ビタミンEラジカル)になるのですが、これは有毒ではなく、ビタミンCやコエンザイムQ10によって抗酸化能を有するビタミンEに再生されるのです。

同様に、ビタミンCやグルタチオンがフリーラジカルと反応してその毒性を弱めると、それら自身は反応性の低いフリーラジカルになるのですが、リポ酸や他のビタミンCによって元の抗酸化能を取り戻します。

ヒトでは、ひとつの細胞のDNAが毎日約10000回も酸化的に傷害されることが知られています。ヒトの細胞は37兆個とも言われていますから、とんでもない回数になります。それぞれの抗酸化物質は、適した部位でこの抗酸化能を発揮しているのです。

細胞というのは、外側の細胞膜はおもに脂質でできていますが、細胞内はおもに水で満たされています。脂溶性のビタミンEやコエンザイムQ10は細胞膜の脂質をフリーラジカルから守り、細胞内や血漿中では水溶性のビタミンCやグルタチオンがフリーラジカルから守っています。脂溶性・水溶性どちらでも働くことができるのがリポ酸で、脂溶性抗酸化物質と水溶性抗酸化物質の双方を再生することができます。

これらの抗酸化物質がネットワークを形成して働いてくれるおかげで、単なる総和よりもはるかに大きな防御力を発揮してくれるのです。

生体内で過剰なフリーラジカルが発生することによって、炎症は増悪します。様々な疾患の直接的な原因ではなくても、多くの疾患の増悪因子となっています。

新型コロナウイルス感染による肺炎は、間質性肺炎が起きていると言われていますが、その機序のひとつとして、このフリーラジカルによる炎症の増悪ということが考えられます。もちろん、なぜこうも突然に炎症の増悪が起こるのか、というところはまだ解明はされていませんが、一旦起こった炎症にできるだけ早くブレーキをかけるにはどうしたらよいのか、ということを考える必要があります。

普段から酸化ストレスが高いと、重症化したときに回復が追い付かないであろうことは容易に想像できます。一般的な酸化ストレスとしては、喫煙や糖尿病などの基礎疾患が挙げられます。これらの要素を可能な限り取り除くということは、重要だと思われます。

重要な抗酸化物質のひとつ、ビタミンCに関しては、ライナス・ポーリング博士が提唱した、「ビタミンCが風邪の治療に有効」という説がありますが、実際には、風邪の予防や治療に効果があるわけではなさそうです。そうではなく、風邪の症状を抑え、発病期間を短縮することが立証されています。これが抗酸化作用によると考えられているのです。

ビタミンCは免疫細胞によく取り込まれます。免疫細胞はウイルスや細菌を攻撃するために多量のフリーラジカルを産生するのですが、過剰なフリーラジカルが存在すると免疫細胞自身を破壊して防御能も弱ってしまうため、免疫細胞自身にビタミンCが高濃度存在することでフリーラジカルから自身を守ることができるのです。

そしてさらに、ビタミンCにはウイルスの活性化に必要な遺伝子発現を抑制することができるという興味深い報告もあるようです。

このようにみてくると、抗酸化ネットワークシステムを普段からしっかりと整えておくことが、新型コロナウイルス感染への備えとなると考えられます。