クリニックで診療をしていると、最近は授乳期間が長くなっていることに気づきます。子どもが3歳になっても授乳をしているというお母さんもいらっしゃいます。授乳期間については様々な意見があるようですが、現在WHOは2歳までを推奨しているようです。

母乳栄養のメリットはいろいろありますが、授乳期間をしっかりとることのメリットは、栄養面よりも子どもの精神面、スキンシップを重視してのことのようです。

しかし、診療をしていて心配になることがあります。授乳を長く続けていると、授乳のために夜間何度も目を覚ますことになり、十分な睡眠がとれないことです。特にフルタイムで働いているお母さんは、子どもと一緒に昼寝をすることもできません。そのような状況で、「だるい、疲れやすい」ということで受診されるのです。

気になって、断乳・卒乳の方法について検索してみると、現在の主流は、赤ちゃんの気持ちを最優先して、おっぱいはもうおしまいであることを「言い聞かせる」という方法のようです。

しかし、そんなにうまくいくものでしょうか? おいしい、おいしいおっぱいとお別れなんて言われても、なかなか諦められるものではないはず。大人だって、おいしいお菓子やお酒を、やめた方がいいと分かっていてもやめられないではありませんか。

核家族がほとんどの現代において、「理想的」に卒乳を成功させるには、気持ちや時間に余裕がなくてはならないでしょう。お父さんにしっかしり協力してもらうことも不可欠です。

卒乳に関する記事を読むと、どれも赤ちゃんとお母さんの「気持ち」にばかり注目していて、身体のことが二の次になっているように思います。しかし、授乳のために夜眠れないような場合は、「理想的」な卒乳を目指す必要はないと思います。

眠れないことは、心身にとって大きなストレスになります。夜眠れず、疲れが取れず、イライラしたり、だるくて十分に赤ちゃんと遊んであげられなかったりしたら、良いことは何もありません。こういうときには、積極的な断乳が賢明な選択だと思います。

ここで、ずいぶん古い話ですが、私の断乳の経験をお話ししましょう。

私の母は教員でした。母の時代、結婚して子どもを育てながら教員を続けるというのは珍しかったのですが、母は産休以外の長期の休みを取ることもなく、3人の子どもを育てながら定年間際まで勤めました。当時はもちろん育休などなく、産休も今より短かったのです。母は、産休明けから近所の人に子どもを預け、昼はミルク、夜は母乳、という形で混合栄養を続けていたようです。

当時は、子どもが離乳食をしっかり食べるようになり、1 歳にもなれば断乳するのは当たり前。その時に使ったのが、子ども用の苦い漢方薬を乳首に塗るという方法でした。

さて、時は流れ、私の娘が1歳2か月の頃、夜中に授乳のために何度も起きている私を見かねた母は、自分がやったやり方で断乳を勧めてくれました。ただ、母が使った漢方薬はもう手に入らなかったため、代わりに仁丹を使いました。娘は苦い乳首を口に含むと、顔をしかめてすぐに口から放してしまいました。でも、もう一回トライ。でも「やっぱりダメだ!」という顔で口から放すと、それっきりおっぱいには見向きもしなくなりました。その日から、夜もしっかり眠ってくれるようになりました。

それから約6年後、下の息子が1歳2か月になった頃、同じように断乳を試みました。ところが、彼は一瞬「おや?」と思ったようですが、何食わぬ顔でそのままおっぱいを飲み続けました。こっちがビックリ! もう一度仁丹を塗ってみましたが、息子は平然と飲み続けます。私は唖然、、、断乳失敗です。

どうしたものかと考えながら、仁丹に代わるものを探してみました。バッチフラワーのレスキューレメディを試しました。当時の日本向けのレスキューレメディは、保存料としてワインビネガーが使われていました。苦味の次は酸味を試してみようとした わけです。

でも、息子は平気。さあ、困った。しばらく日を置いて思いついたのが、大根おろし。これでようやくうまくいきました。子どもたちが大きくなってみて分かったことですが、娘は舌がとても敏感で、ミネラルウォーターも苦いと言うほど。イチゴもピリピリすると言って食べません。彼女にとって仁丹は、さぞかし衝撃的な味だったに違いありません。思い返してみれば、生後6か月で熱を出した時、おいしい(?)はずのイチゴ味の風邪薬をひとくち口に入れただけで、ものの見事に噴水のごとく吹き出してしまいましたっけ。一方の息子は苦いものも辛いものも 大好き。将来は酒飲みでしょうか・・・

以上は、断乳がおもにお母さん側のメリットなる場合について書いたのですが、最近、子どもにもメリットがあると考えさせるようなケースがありました。

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数か月前から通院している、2歳3か月のお子さんです。アトピー性皮膚炎の治療をしているのですが、なかなか良くなりません。ステロイド外用剤を希望しないので、漢方薬だけで治療していましたが、なかなかうまくいきません。ところが、ある診察のとき、皮膚の赤味が引いて、きれいな皮膚の部分が ずいぶん増えていました。

「何が良かったんでしょうね?」と尋ねると、「卒乳したんです」とおっしゃいます。「私の母乳がいけなかったんでしょうか?」

「そうじゃないと思いますよ。母乳をやめてから、お子さん、よく食べませんか?」

「モリモリ食べるようになりました!」

「きっと、お母さんのおっぱい飲んで満足してしまっていたから、食べる量が少なくて栄養が足りてなかったんでしょうね」

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皮膚を作る材料として、タンパク質をはじめとする栄養素が必要ですが、それを作るにも、エネルギーが必要です。炎症を鎮めたり、健康な皮膚を作ったりするためには、エネルギーが必要なのです。まして、小さなお子さんの場合、日々の成長にもたくさんのエネルギーを必要とします。

エネルギーと言っても、カロリーが足りていればよいということではなく、エネルギーを作り出すためのビタミンやミネラルが豊富に必要なのです。

昔は1歳を過ぎて歩き始める頃には、みな母乳を卒業しました。近年は、欲しがる間は母乳を続けるお母さんも増えています。

しかし、このようなケースを見ると、やはり、ある程度離乳が進めば、栄養面を考えて、卒乳を考えるのが良いと思います。各家庭には様々な事情があると思いますが、適切なタイミングで卒乳を迎えられると良いですね。家族、周囲の人の助けを借りて、上手に乗り切りましょう。