年齢が上がると、眠りが浅くなる。
朝早く目が覚める。
そんなことを聞かれたことがないでしょうか。
ご家族にそんな傾向が見られたり、
ご自身で実感されたりしているかたも
いらっしゃるのではないでしょうか。
これはいったい、どういうことなのでしょう?
東洋医学的に考えてみると、その辺りが見えてきます。
睡眠とは、活動の反対の意味を持ち、
究極の「休息」です。
東洋医学ではあらゆる事象を陰と陽に分けて考えますが、
活動は「陽」
休息は「陰」
と考えます。
「陰」を別の言葉で表現すると
「ゆったりとした潤いのある状態」です。
簡単に言うと、眠れない状態とは
「陰」が不足した状態なのです。
こういう状態を東洋医学では
「陰虚」と言います。
お年寄りの「不眠」というのは、
一般的に、どちらかというと寝つきはよく、
朝早く目が覚めてしまう、という特徴があります。
そうすると、単純に「陰」が不足しているのではなく
休息の「陰」から活動の「陽」へと
徐々に切り替わるべきところが
スムーズにいかずに、バランスが崩れ
相対的に「陰」が不足してしまっていると考えられます。
不眠がある場合、注意すべきは
日中の活動に影響が出ていないかどうか、です。
不眠のために体が弱っている場合は、
目に見えないエネルギーである
「陽」も不足していると考えられます。
実は、「陰」には、「ゆったりした潤い」という意味だけでなく
燃料のようなものも意味します。
「陰」が絶対的に不足していれば、
燃料不足で疲れやすくなったりします。
さて、東洋医学では「腎」が生命力の源と考えます。
この力は加齢とともに衰えるのが自然です。
加齢とともに疲れやすくなるのは「陽」の不足。
加齢とともに朝早く目が覚めやすくなるのは「陰」の不足。
いずれも加齢による「腎」の力の衰えが関連しています。
実は脳の働きも「腎陰」と関係していて
「陰」の不足が認知症の原因になりえます。
逆に「腎」に関わる働きを鍛えることで
結果的に「腎」の力を充実させて
年齢の割に達者に過ごすことができます。
腎に関わる働きとは、足腰を鍛えることです。
姿勢をよくして、こまめに体を動かすことで
腎が鍛えられ、不眠解消にもつながります。
歳をとって眠りが浅くなり、朝早く目が覚めてしまうと
訴えるかたもいらっしゃいますが、
日中に特に大きな支障なく動けているのであれば
あまり心配はいらないのです。
逆に、眠れない、眠れない、と気に病むほうが
かえって悪影響を与えてしまいます。
歳をとって、あまり眠れなくなった、という話を聞くと
いつも思い出すのは、洋画家の入江一子氏のことです。
あるとき、たまたまテレビを観て知りました。
入江氏は、そのときすでに101歳だったのですが、
現役で油絵を描いていらっしゃいました。
展覧会に出展したり、生徒さんを教えたりもしていました。
その日々の生活が映し出されていたのですが、
1時間描いては1時間眠る、というのをずっと繰り返しているのです。
もちろん、その途中で食事をしたり入浴したりもありますが、
描きたくなったら描く、疲れたら休む、という生活です。
これを観てからは、ある程度歳をとったら、
1日何時間眠らないといけないとか、
何時に寝ないといけない、起きないといけない、
ということにあまりとらわれなくても良いのではないか、
と思うようになりました。
そういうことに煩わされてしまうと、
かえって健康ではなくなるのではないか、とも思います。
もちろん、入江氏のような生活は極端かもしれませんが
夜にあまり眠れず、睡眠不足を感じたら、
日中に昼寝をすればよい。
今日眠れなくても、明日は眠れるだろう、と考えられること。
そのくらいの心の持ちようこそ、
歳をとってからの健康の秘訣なのかもしれません。