私がかつて大学病院を辞めたきっかけのひとつは、
現代医療は根本治療に向かわない、と感じたからでした。

アトピー性皮膚炎にステロイド外用剤は第一選択でしたが
当時、ステロイド外用剤の副作用が問題になり、
マスコミでも盛んに取り沙汰されるようになりました。

そして、ステロイド外用剤に代わるものとして
登場したのが免疫抑制剤、現在のプロトピック軟膏でした。

とはいえ、ステロイドが多くの人の命を
救ってきたことは確かです。
全身に炎症が及ぶ重症の皮膚疾患には、
死に至ることもあったのです。

それが、ステロイドの登場で
死を免れるようになりました。

しかし、その効果のすばらしさゆえに
さまざまな場面で使われるようになり、
湿疹や皮膚炎に対しては
皮膚科専門外の医師も安易に使うようになった、
という経緯があります。

体の部位によって皮膚の厚さが異なり、
外用したステロイドの吸収率も異なります。
そのため、ステロイド外用剤の強さは
5段階のランク付けがなされています。

顔は吸収がよく、ごく弱いものを使う必要がありますが
その辺りの認識が甘く、強いものを漫然と使用しているうちに
副作用が現れてきた例も多かったのです。

あまりに簡単に症状が治まってしまうがゆえに
本当の問題に目が向かなくなってしまう、
現代医療で使われる薬には、
総じてそういう問題点があると思います。

それまでの生活に問題があっても、
症状が楽になってしまうと、
その問題を解決しようとはしなくなってしまいます。

最近では、ステロイド外用剤を使いたくない、という
患者さんも結構いらっしゃいます。
そして、その代わりに漢方薬で何とかしてほしい、
と思っていらっしゃる方も多いのです。

確かにステロイド外用剤を止めようと思うとき、
抗アレルギー剤だけよりは、漢方薬を使った方が
うまくコントロールできると感じています。

しかし、炎症がとても強い場合に、
最初から漢方薬だけでなんとかしようとしても
なかなか治まってはくれません。
燃え盛っている火に
水をちょろちょろかけているような感じです。

当然、かゆみが強くて眠れませんから、
そのストレスも加わって
治りたくても治れない状態になってしまいます。

私は、眠れないくらいかゆみが強い場合、
ステロイド外用剤や抗アレルギー剤を積極的に
使うことを勧めます。

それと同時に漢方薬を併用しながら
炎症が鎮まってきたらステロイドや抗アレルギー剤を
徐々に減らしていきます。

ステロイドや抗アレルギー剤を使うこと自体に
問題があるのではありません。
ステロイドや抗アレルギー剤で炎症を抑えている間に
根本的なアプローチをまったくしないところが問題なのです。

アトピー性皮膚炎の場合、食事や生活習慣、ストレスが
大きく影響しています。

ステロイドや抗アレルギー剤でひどい状態を回避して
時間稼ぎをしている間に
自分の力で治す力、自己治癒力をしっかり発揮できるような
状態を作り上げていく必要があるのです。

そのためには、漢方薬の助けを借りることは有効ですし
食事を改善し、必要であればサプリメントも考慮する、
ストレスの軽減を図る、というように、
全方位的に対処して初めて治癒に向かうことができます。

現代医学の薬のほとんどは、対症療法であり、
症状を一時的に抑えるにすぎません。
しかし、それ自体が問題なのではありません。
その力自体は素晴らしいものであり、最大限に利用すべきです。

ただし、その力はあくまでも時間稼ぎでしかない、ということも
しっかり認識しておく必要があります。そして、
その間に自己治癒力をしっかり発動させることにも
目を向けていかなくてはなりません。

残念ながら、現代医学には、
自己治癒力を盛り立ててくれるような
手立てがほとんどありません。
生活習慣を整える必要はあっても、
通常の診療の中で、
そこまでしっかり指導ができることは稀です。

そこを補うものとして、代替医療を活用することも
必要になってくると思います。

しかし、まず気づいていただきたいのは、
何らかの症状が出たということは
それまでの生活になんらか問題があったということです。

それは食事かもしれませんし、運動不足かもしれません、
仕事や家庭のストレス、睡眠不足なのかもしれません。
症状とは、そのことを知らせてくれるサインなのです。

身体が出しているせっかくのサインを見逃さないよう、
ぜひとも生活の見直しをしてください。