先日、皮膚のセミナーを開催しました。
皮膚科医が伝える 健康な皮膚をつくるために~本当に大切なことは何か~

実は昨年も同じような内容で皮膚のセミナーを行いましたが
改めて皮膚がやってくれていることの大切さを実感しました。

皮膚の働きはおもに次のようなものが挙げられます。
・水分の喪失や透過を防ぐ
・体温を調節する
・外からの刺激を感知する
・微生物や物理化学的な刺激から生体を守る

しかし、実はこれだけではないのです。
以前もご紹介しましたが『第三の脳』という本がある通り
皮膚は脳と同じような機能を持っているすごい臓器でもあります。

かつては、外界の情報は、皮膚の少し下の部分である
真皮の部分にある神経が感知するものと考えられていましたが、
実は、皮膚の細胞自体が温度や湿度、さらには光や色までを感じ、
反応してさまざまな伝達物質を出していることが分かってきています。

それもそのはず、我々の進化の道筋を遡れば、
神経が発達してくるのはずっと後になってから。
最初は食べ物を入れて出すだけの
管のような構造で生活していたのであり、
体の表面全部で外界の情報を捉えていたのですから。

皮膚の細胞のさらにその表面には
皮膚常在菌と呼ばれる細菌が
約20種類、数百億個も棲息しています。

これらのおかげで皮膚の表面が弱酸性に保たれ
有害な細菌の感染から守られています。
そのため、石鹸で洗うことは控えたほうが良い、ということを
以前のブログでも書きました。

しかし現実には、新型コロナウイルスの感染拡大により
常にアルコール消毒や手洗いを要求される状況がずっと続いています。

皮膚表面での常在菌の働きをうまく活かすことができなくなると
皮膚自体のダメージが増えて、皮膚細胞が興奮し、
ストレスホルモンが放出されるようになります。

我々は、心理的なストレスのみならず、
皮膚でもストレスを感じてしまっています。
そのストレスが皮膚の炎症を起こしやすくし、
一旦傷ついた皮膚の治りを遅くします。

こうして悪循環に陥っていってしまうのです。

別の見方で皮膚を眺めてみましょう。
皮膚は我々が外界と接する最前線に存在する臓器です。
我々の心身に問題が生じたときに、
真っ先にそれを症状として表して、
知らせてくれるのも皮膚なのです。

そして、心身が本当に良い状態に治るまで、
皮膚は最後まで症状を出し続ける存在です。
現代医学の薬だと、その症状を無理やり抑え込んでしまうので
分かりにくいのですが、
ホメオパシーなどの自然療法で治っていくときには
その順序がはっきり分かり、
それを目安に治癒の方向がうまく進んでいるかを確認していきます。

漢方クリニックで診療を始めたとき、こんな経験をしました。

最初は不眠など精神的に不安定だということで受診された女性が
漢方薬で治療をしていくうちに改善し、
しばらく受診されなくなりました。

この患者さんが数か月ぶりに受診され、
「かゆくはないんですが、皮膚に何かできている」
とおっしゃいます。

診てみると、腹部の皮膚がガサガサになり、
茶褐色のまだらになっています。
診断名を付けることができるようなものではありませんでした。

何か思い当たることはないか尋ねると、
最近、ストレスがかかっていたとのこと。
ただ、以前であればこういうストレスがかかると
眠れなくなったり精神的に不安定になったりしていたけれど、
今は、それは大丈夫なのだそうです。

精神的なことというのは、
皮膚よりももっと深いところの話。
以前は病が深くまで達していたということなので、
健康の度合いとしては今の方が良いことになります。

こんなふうに、心身の問題を律儀に知らせてくれる皮膚。
そのお知らせを大事に受け止めることで
病が深くまで達するのを防ぐことができます。

健康な皮膚とは、見た目がきれいということではなく
外からの情報を処理し、刺激から守り、
内側の問題をきちんと表現することができる皮膚のことを
いうのだと思います。

そんな健康な皮膚をめざしましょう。