生まれ故郷の福井に帰省するたびに、
必ずおろしそばを食べます。
秋には北陸本線沿線は一面に白い花が咲くソバ畑が広がります。
福井、特に私の生まれ育った武生(現在は越前市)は、
おそばがとってもおいしいのです。
「越前おろしそば」と呼ばれるように
おろしそばが名物です。
冷たいおそばに、
大根おろしがたっぷり入ったつゆをぶっかけて食べます。
つゆにつけて食べるのではありません。
小さいときからこのおろしそばを食べて育っているので
「越前おろしそば以外はおそばじゃない」
くらいに思っています。
さて、そんなおそばですが、健康を意識する方の間では
人気のようです。
栄養的にどうなのかを少し書いてみたいと思います。
そばの栄養について初めて意識したのは、
私が福井を離れてまもなくのことでした。
大学病院をやめて、茨城県の田舎に引っ越し、
生後8か月の娘と母一人子一人同然の生活を始めました。
周囲には知り合いが誰もいませんでした。
そんなことより何より
北陸で生まれ育った私にとって一番苦痛だったのは、
冬の乾燥した晴天が、ずっと続くことでした。
毎日毎日、「働け」と言われているような感覚がありました。
「高気圧に覆われた晴れの天候は、交感神経を優位にする」
というのを、後に安保徹先生の本で知ることになりますが、
当時それを実感していました。
そんな生活をしているうちに、まぶたや腕の内側に
細かい紫斑が出るようになりました。
皮膚科の教科書を広げてみると
「単純性紫斑」と呼ばれるものであろうと思いました。
毛細血管の壁が弱いために、簡単な刺激によって出血する。
20~40歳の女性に多い。
ということでした。
原因ははっきりしないものの
ストレスが要因の一つに挙げられていました。
「なるほど」と納得です。
治療のところには、自然に治癒する、ということで
大したことが書かれていなかったのですが、
「毛管壁を強化するためにはルチンがよい」
と書かれていたんですね。
「ルチンって何?」
と思って調べてみたところ、
そばに多く含まれていることが分かりました。
そこからそばを意識して食べるようにはなりましたが、
残念ながら、福井にいたときのように
おいしいおそばにめぐり会うことはありませんでした。
さて、その「ルチン」は、今注目されている栄養成分の一つで、
かつてはビタミンPとよばれていたビタミン類、ポリフェノールの一種です。
毛細血管の働きを安定、強化させ、
脳出血や出血性の病気の予防効果があるといわれています。
「ルチン」には、弾力性のなくなった、破れやすくなった血管を
新しい弾力性のある血管に取り替える働きがあり、
血液をスムーズに流す作用があります。
毛細血管を強化するためには一日20mgの摂取が目安で、
茹で上げたそば100gの中には10mgルチンが含まれているので、
一人前(約200g)のそばを毎日食べればよいことになります。
また、そばにはビタミンCは含まれないため、
ビタミンCの豊富なおろしと一緒に摂ることは理にかなっています。
血管の支持組織であるコラーゲンを合成するのに
ビタミンCが必要ですからね。
「ルチン」は水溶性のため、茹でている間に
どんどん湯の中に溶け出してしまいます。
そばにはビタミンB1、B2も含まれていますが、
これらも水溶性なので溶け出してしまいます。
つまり、そば湯はビタミン類の貴重な補給源でもあるのです。
そば湯を飲む風習は、信州で始まり、それが江戸に広まったとされていて、
江戸時代の書物の中には
「そばを食べたあとにそば湯を飲まないと必ず病にかかる」
という内容の記述があるそうです。
毎日の食事に、上手におそばを取り入れてみましょう。