以前、クリニックにいらしていた患者さんで、
「今度フルマラソンに出るからトレーニングをしている」
という方がいらっしゃいました。
患者さんとしていらっしゃったわけですから、
なんらかの体調不良を感じていらっしゃったわけです。
血液検査をしてみると、鉄欠乏性貧血でした。
この状態でトレーニングを続けていれば、
体調不良にもなるでしょう。
トレーニングを控えてはどうですか、と申し上げましたが、
フルマラソンには出ると言ってききません。
漢方薬とサプリメントで治療を始めましたが、
内心、心配でした。
実は、このときのマラソン大会は、
悪天候のため中止になり、ホッと胸をなでおろしました。
10年ほど前だったでしょうか、
私自身がトレーニングジムに通い始めたことがあります。
30分ほど有酸素運動中心のトレーニングをするのですが、
想像以上に息切れがして、自分で驚いたことがあります。
長い間、運動していなかったとはいえ、
元々、運動は苦手ではなかったので、
この息切れには本当に驚きました。
でも、結局忙しくて通えなくなり、
そのままになってしまいました。
その後数年して、クリニックを開業してから
血液検査をしてみるまで
自分がどれだけ鉄不足かを認識していませんでした。
あの息切れの大きな原因は、
鉄不足によるものだったのだと、今では思っています。
実際、その後サプリメントを摂ったり食事を改善したりして
栄養状態が良くなってからは、
朝、電車に乗り遅れそうになって駅まで走っても、
以前のような息切れを感じることはありませんでした。
鉄と酸素はエネルギーを生み出すのに欠かせないものです。
一度に生み出すエネルギーが少なければ、
回転数を上げて帳尻を合わせようとします。
心臓も肺も、フル回転しようとします。
それが、動悸や息切れという症状として現れてくるわけです。
心肺機能にすごく負担がかかることが想像つきますね。
これから運動を始めようという方、
始めてみたけれど、体力が続かないというかた、
ご自分の栄養状態を今一度確認してみてください。
さて、「筋肉は裏切らない」なんていう言葉が
ブームになるくらい、筋トレをされる方も増えています。
筋トレさえすれば、筋肉がつくと思われがちですが、
やり方を間違うと、
かえって筋肉が落ちてしまうことさえあります。
いったい、どういうことでしょうか?
運動に必要な主要 エネルギー 源は炭水化物と脂肪です。
必要な量が体脂肪として貯蔵 されていなければなりません。
一方、炭水化物は筋肉や肝臓に
グリコーゲンとして貯蔵 されていますが、
貯蔵できる量が少なく、運動後には減少します。
このため運動後に、食事で炭水化物を摂ることが
推奨されています。
体内に効率良くグリコーゲンを貯蔵するために、
運動後速やかに補給することが有効であることが
多くの研究から明らかになっているのだそうです。
運動に重要な筋肉を作る栄養素がタンパク質です。
筋トレによって、筋肉作りに必要なタンパク質の合成を
促進させる成長ホルモンの分泌が高まるのです。
さらに、睡眠時にも成長ホルモンの分泌が高まります。
つまり、筋トレの後または睡眠前のタイミングで
タンパク質と炭水化物を一緒に摂ること で、
より効率的に筋タンパク質合成が促進されることになります。
運動をすることによって、
体内に貯蔵されているエネルギー源である
グリコーゲンが消費され、筋タンパク質が分解されます。
そのため、運動後は、これらを回復させたり
合成を促進させたりする必要があります。
そのためには、材料となる栄養素が必要であり、
適切なタイミングでの食事は、
良質な体作りにつながることが理解できますね。
また、身体づくりの中心である金タンパク質合成には、
成長ホルモンの分泌が欠かせません。
成長ホルモンには、血中のアミノ酸を筋肉に取り込む
働きを刺激するメカニズムがあるのです。
昔から、寝る子は育つとはよく言ったものですが、
大人になっても、良い身体づくりには、
睡眠が欠かせないということですね。
忙しくて運動する時間がない、ということで、
仕事が終わってから無理やり運動し、
睡眠時間が減ってしまった、なんてことになると、
身体を傷めてしまうことになりかねません。
筋トレをやり過ぎると免疫が下がる、という話も聞きますが、
それは、消費されてしまった栄養素を、
タイミングよく補給できていない、
回復に必要な休養が十分に取れていない、
ということに他なりません。
健康のために運動は必要です。
でも、そのためには、
十分な栄養と休養・睡眠が不可欠であるということを
しっかり覚えておきましょう。