現代人は、自律神経が乱れているとよく言われます。別のところで「自律神経失調症」と言われた、という患者さんもクリニックにいらっしゃいます。

まず、自律神経とは何でしょうか。自律神経とは、身体が全体として統制の取れた働きができるように調整をしている神経で、自分の意志でコントロールすることはできません。

自律神経にはふたつあって、ひとつが交感神経、もうひとつが副交感神経と呼ばれます。交感神経は、逃げたり戦ったりするのに適した身体の状態にします。反対に、副交感神経は、休息したり消化・吸収・排泄したりするのに適した状態にします。どちらが大事、ということではなく、このふたつが状況に応じて適切に切り替わる、ということがとても重要なのです。

ところが、現代においては、夜になっても昼と同じような明るさや環境にあり、仕事などで長時間にわたって緊張状態を強いられたりすると、常に交感神経が更新した状態になり、適切に副交感神経に切り替わらなくなります。その状態が続くと、一挙に副交感神経優位になり、その状態から切り替わらなくなってしまいます。

このように自律神経の働きが乱れたときには、どうしたらよいのでしょうか。

自律神経を整えるために自分でできることの一つに、「呼吸」があります。 自律神経というのは、人間の意志とは無関係に働くので、自分ではどうしようもないもののように考えられますが、人間の呼吸器というのは少し特殊な事情があります。「息を殺す」、「息をのむ」、「息をひそめる」、「息を合わせる」、「息抜き」など、呼吸に関する表現はいろいろあります。これらの状況を考えると、意識的に行っているようなものもありますね。

動物が進化の過程で海から陸地へ上がった際に、それまであった鰓(エラ)を陸上での呼吸のために肺として使うようになりました。肺そのものはただの袋のような構造でしかなく、自分で伸び縮みできるわけではありません。そこで、空気の出し入れができるように、鰓の周りにあった筋肉を肺と一緒に体内に引き込み、人間に至っては立派な横隔膜へと変化させていきました。

横隔膜は、立派な膜状の骨格筋です。骨格筋というのは、手足の筋肉と同じで、人間の意志で動かすことができるものです。肋骨の間の筋肉も呼吸に関与します。呼吸は基本的な動きは自律神経で制御されているのですが、人間の意志で動かすことができる骨格筋も関与していることから、逆に、呼吸を意識的に行うことによって、自律神経に影響を与えることができるのです。

おそらくみなさんが緊張したときに行っている深呼吸というのがそうですね。意識的にゆっくりと深い呼吸をすることによって、脳をだましているとも言えます。今はゆったりしてよい状態なのだと、身体に信じ込ませるというわけです。

ご自分の状態をよく観察されると分かりますが、難しいことを考え込んでいるとき、本当に「息を止め」てしまっていることがあります。「息を入れる」必要がありますね。「息をのむ」のは、驚いて緊張したとき。息を吸い込んでいます。「息を抜く」と言うように、リラックスするには、まずは息を吐かなくてはなりません。

「深呼吸をしましょう」というと、いきなり吸い込もうとする方が多いのですが、まずはしっかりと息を吐き切ることを意識してください。そうすると自然に空気が入ってきます。

緊張しやすい方、目の前のことに振り回されてばかりいる方は、この深呼吸を普段から意識的に行うことで、自律神経を整えていくことができます

血圧が高い方、特にストレスが強くて血圧が上がっているような方は、呼吸が浅い方が多いのです。息を深く吸うことができません。健康診断などで少し血圧が高いと、「運動しましょう」と言われると思いますが、頑張って走るとか、筋トレを一生懸命やるよりも、まずは呼吸を整えることの方が大事です。ヨガのような穏やかな呼吸を意識的に行うものが理想的です。

男性にヨガをお勧めすると、「女性ばかりがやっていそうで気が引ける」という答えが返ってくることが多いのですが、最近私もジムに行くようになって見ていると、ヨガのクラスにも熱心な男性の受講生の方が結構いらっしゃいます。無理をせず、ご自分のペースで呼吸を意識しながらやるヨガは、自律神経を整えるのに最適だと思います。

ただ、最近はヨガにもいろいろなバリエーションが出てきて、ホットヨガとか空中ヨガとかがあるようです。

ホットヨガは、ものすごく冷えが強い方にはよいかもしれませんが、なかには暑さで汗をかき過ぎて、具合が悪くなってしまう方もいます。東洋医学でも、汗をかきすぎると消耗すると考えます。また、ヨガの受講生だけでなく、インストラクターの方の場合は1日にいくつもクラスがあることもあり、本当に具合が悪くなってしまうことがあるそうです。

体調に気を付けながら、難しいポーズばかりに気を取られるのではなく、まずは簡単な動きやポーズでしっかり呼吸を意識することを習慣にしてください。お勧めです。