三木成夫氏の『生命形態学序説』に出会ったころ、別の本を読んでいるときにもう一つ大きな出会いがありました。野口三千三氏の『原初生命体としての人間』です。
本を読みながら何となく共通点があるような気がしたのですが、実は、三木氏と野口氏はお二人とも同時期に東京芸術大学で教職にあり、ご自分たちもお互いに似通ったところがあると意識されていたようです。
野口氏は野口体操というのを考案された方ですが、「人間の身体というのは固体ではなく、皮膚という皮袋の中に液体が入っていて、その中に骨や筋肉や臓器が浮かんでいるもの」という見方をされています。そのような考え方から最も自然な姿勢というのは、生卵をお手本にするというのです。
「真っ平らなテーブルの上に生卵が何の支えもなく立つ」
にわかには信じがたかったのですが、やってみることにしました。かなり時間がかかりましたが、一旦立つと、さも当たり前のようにいつまでも立っているのです。そして、ちょっと力が加わって倒れるときは、潔くスッと倒れる。
バランスが取れている状態というのは、そういうものなのです。
人間の身体でこれを実現するにはどうしたらよいのでしょうか。
ところで、肩こり・首こりが、なかなか取れない、という方がいらっしゃいます。漢方薬で血流を良くすることで改善することはできますが、身体の使い方を変えないことには、同じようなことを繰り返してしまいます。
同じ姿勢を続けていると、肩がこったり首がこったりすることをみなさんも経験され ていると思いますが、いったいどういうことが起こっているのでしょうか。
「コリ」というのは、筋肉の緊張が続いて血流が悪くなることから始まります。では、この筋肉の緊張を取るためには、どうしたらよいのでしょうか?そのためには、まず筋肉が緊張していることに気付く必要があります。そのためにも自分の身体、姿勢が今どういう状態になっているかについて、意識的になる必要があります。
人間の身体にはたくさんの骨があり、骨と骨の間は「関節」という構造で曲げ伸ばしやねじりなどの動きが可能になるわけですが、動くためには、関節の周りの筋肉の伸び縮みが必要です。単純な形を例にとると、肘の関節を曲げるときは、上腕の内側の筋肉が収縮して外側の筋肉が伸び、肘の関節を延ばすときは逆に上腕の外側の筋肉が縮み、内側の筋肉が伸びる必要があります。細かい違いはあるものの、体の中で動く部分は同様の関節構造からできています。
人間の身体は、二本脚の上に骨盤が載り、その上にいくつもの椎骨が縦に積み重なり、その上に頭が載った状態です。そのそれぞれの骨の位置がきちんとバランスの取れた状態になっていたら、筋肉の力がなくてもまっすぐに立っていることができるはずなのです。それが、「生卵がお手本」ということです。背骨を構成している椎骨一つ一つもその上下の椎骨との間で関節構造を形成し、そのそれぞれが筋肉でつながっています。この状態から一つの関節の位置が少しでもずれると、バランスを取ろうとして、次々と他の関節が動いてバランスを取り始めます。
このとき、その関節の周りの筋肉が収縮・伸展するわけです。必要な動きをするためであればよいのですが、悪い姿勢を取っているときには、この無駄な筋肉の収縮・伸展がずっと続くことになります。
では、「肩こり」のことを考えてみましょう。肩の関節はかなり大きな関節ですが、この肩関節から両腕がぶら下がっていることをイメージしてみましょう。腕が落ちてしまわないようにと、力を入れる必要はありませんね。何もしなくても、腕は肩から自然にぶら下がってくれています。腕を動かす必要がないときは、このニュートラルの状態にしておくことに気をつけるだけで、肩こりはずいぶん減ります。
何かに夢中になっているとき、自分の肩がどうなっているか、気を付けてみましょう。無意識に肩を持ち上げていませんか? 気付くたびに肩から腕がぶら下がるように力を抜くようにしてみましょう。ある動きをしようとするとき、力が入った状態だと、一旦その力を抜かないと目的の動きに移れません。力が抜けていれば、すぐに目的の動きに移れます。古武術の素早い動きなども、こういう原理です。小学生のころ、ラジオ体操の模範演技をテレビで見て、小さくジャンプするときの腕の動きを真似したくて真似しようとするのに、どうしてもうまくできませんでした。両腕が身体の脇で「ばらんばらん」とあらぬ方向に行ってしまうのです。模範演技のお姉さんたちの腕は、しなやかに「ぷらんぷらん」と同じ動きを続けていました。
それがうまくできるようになったのは、野口三千三氏の本を読んで、腕の力を抜く、ということを身につけてからでした。「関節は、上下にゆすってやると、楕円運動をする」うまく力が抜けていると、ジャンプしたときに、肩の関節、肘の関節、手首の関節が、うまく楕円を描く。それがまとまって、あのきれいな「ぷらんぷらん」の動きになるのでした。ラジオ体操も、きちんとやろうと思うと、なかなか奥が深いものです。
運動しましょう!というと、「ジムに行く時間がない」とおっしゃる方が多いのですが、まずは、お家でラジオ体操、やってみませんか?