私たちの主要なエネルギー源というのは、糖質です。その糖質の摂り方について考えてみましょう。

まずはグルコースが細胞の中へ取り込まれることが重要なのですが、グルコースが細胞の中に取り込まれるにはインスリンの働きが重要となってきます。食後直ぐにグルコースを感知して、インスリンが分泌されますが、そのインスリンが細胞の中のGLUT4(グルコーストランス ポーター)に働きかけ、グルコースを細胞の中へ取り込みます。ただし、脳・腎臓・網膜細胞・小腸粘膜・血球細胞は、インスリンに頼らずにグルコースを吸収するため、低血糖になってし まうとその悪影響がそのまま出ます。つまり、消費量が多く大事な器官なのでグルコースが優先的に用いられるのですが、蓄えもないので、直ぐに影響が出るのです。

血糖が高い時には、インスリンが多量に分泌されて細胞内にグルコースが多く取り込まれます。しかし、酵素の量には限りがあり、補酵素のビタミンB群なども不足すると、クエン酸回路 の中に入ってエネルギーとなることができるグルコースの量は限られてきます。クエン酸回路に入れないグルコースは、脂肪酸から中性脂肪となったり、ピルビン酸から乳酸となったりします。

ゆっくりと食べたり、繊維の多いものを食べたりしてグルコースの供給を遅くすると、少しずつ長時間にわたってグルコースが細胞の中へ取り込まれるので、持続してエネルギーを作り出すことができます。ゆるやかに細胞の中へ取り込まれたグルコースは、脂肪や乳酸になってしまうことなくクエン酸回路の中へ入り、持続してエネルギーを作り出すことができます。単糖類、二糖類が多い食事は、すぐに血糖値が上がって脂肪を作りやすいのです。砂糖・果糖を控えること、ゆっくり食べること、タンパク質や食物繊維が多いものを先に食べることは肥満解消にも良いわけです

ところで、この糖を制限する糖質制限というのもありますが、これはどういうものでしょう。

『ケトン体が人類を救う 糖質制限でなぜ健康になるのか』

私がこの本を読んだのは、4年前、自分が糖質制限をし始めたころでした。以前にも書きましたが、 私は糖質制限で体調がとてもよくなりました。糖質制限はブームとなっていきましたが、「糖質制限は危険である」という意見があり、日本糖尿病学会はいまだに糖尿病の治療として糖質制限を認めていません。一体どういうことだろうと思っていたところで、 この本に出会ったのでした。著者は、産婦人科の医師です。ご自分の糖尿病を糖質制限で改善させた経験をお持ちで、糖尿病で引受先のない妊婦さんたちを糖質制限で無事出産に導き、その経験を糖尿病学会で発表します。しかし、相手にされないだけでなく、さんざん非難を浴びます。その後、血中のケトン体を測定する器械を見つけたのをきっかけに、赤ちゃんの臍帯血や胎盤の血液データをとるようになります。その結果、赤ちゃんの血液は血糖(グルコース)値が低く、ケトン体血が非常に高いことが分かります。

人のエネルギー源は本来グルコースではなく、脂肪の分解産物であるケトン体であることを示す結果です。

この本が出版される2年前、『炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学』という本が出版されました。人のエネルギー産生システムがケトン体メインだということを 人類の歴史から理論的に説明したものでした。

糖質が簡単に手に入るようになったのは 農耕が始まった、ごく最近のことですから、本来糖質は主要なエネルギー源ではない、ということです。今回ご紹介している本は、このことが検査データから裏付けられた結果です。糖質制限は安全というだけではなく、さまざまな病気を予防したり改善したりできる可能性があります。 

私自身、随分前から、糖尿病の食事療法でカロリー制限しかしないのを不思議に思っていました。糖尿病は血糖が上がる病気なのに、カロリーだけを問題にするのはなぜなんだろうと思っていたのです。

15年ほど前に『主食を抜けば糖尿病は良くなる』という本を目にして、すごく納得しました。きっとこれから糖尿病の食事療法は、主食を制限する方向へ行くんだな、と思っていたのですが、その後、一向にそういう流れにはなりませんでした。

近年、糖質制限がブームになっても、糖尿病学会は反対を唱えるばかりのようなので、いったいどういうことなのか?と思っていましたが、この本を読んで合点がいきました。

この本の著者が、学会でどういう扱いを受けたか、赤裸々に書かれています。

医学界の常識を覆すような研究を、非難やバッシングを受けながらも、地道に、果敢に続けている医師がいることに、とても勇気づけられました。そして、Facebookグループなどで 患者さんたちを応援しながら、糖質制限を広めようとしていることも素晴らしいと思います。

この本は、糖質制限について正しく理解するのに 非常に役立つのはもちろんですが、医学界の常識とは、本当なのか? 今一度考えてみるきっかけになると思います。