運動について、これまでにもいくつか記事を書いてきました。
「運動していますか?」と患者さんに尋ねると、
なかなか良い返事は返ってきません。

それは、「運動」という言葉をとても偏った意味で
理解しているということがあるからのようです。

私たちはスポーツ選手ではありません。
超人的な動きをする必要はありません。
私たちに必要な運動というのは、健康な生活を送れるようにするものです。

そもそも、私たちは動物です。
植物ではないので、動くようにできています。
動かさないと、本来の働きが衰えてしまいます。

体の動きというのは、骨格筋によって起こります。
身体には、他に心臓を動かす心筋、内臓を動かす平滑筋があります。
一般的に「筋肉」というときには、骨格筋を指します。

身体にはたくさんの骨がありますが、そのそれぞれを
筋肉がつないでいて、筋肉が縮んだり伸びたりすることで
関節が動き、さまざまな動作が可能になります。

筋肉には、このように動きを作るだけではなく、
姿勢を保つ働きもありますし、
熱を作り出す働きもあります。

そのすべての働きがしっかり行われることで、
健康な状態が保てるとも言えます。

ところで、骨格筋には2種類あるのをご存知でしょうか。
遅筋(赤筋)と、速筋(白筋)です。
遅筋はスリムで軟らかい筋肉で持久力があり、
ケガをしにくく疲れにくい体を作れます。

この筋肉が働くためのエネルギーには酸素が必要で、
40代以降から増えてくる筋肉です。

一方の速筋は、一般的な筋トレで鍛えられるような
ムキムキの硬い筋肉です。
瞬発力はありますが、持久力はありません。
そのため、ケガをしやすく疲れやすいという特徴があります。

エネルギーとしては酸素を必要としませんが、
たくさんの糖が必要になります。
20~30代まではこちらの筋肉の方が優勢です。

こうしてみてくると、健康な生活を営む上で必要なのは
どちらの筋肉か、分かりますよね。

スポーツ選手でもない私たちが、ケガをせず、
疲れにくい身体を維持しながら長生きするには
遅筋を鍛える必要があるわけです。

遅筋を鍛えるには、何もジムに通って
辛いトレーニングを繰り返す必要はありません。
関節の曲げ伸ばしをするのではなく、
筋肉に負荷をかけた状態を保つような運動が必要なのです。

特に下半身の筋肉に負荷をかけて鍛えることによって
筋肉からマイオカインという物質が放出されます。

マイオカインとは、骨格筋(筋肉)から分泌される
生理活性物質(サイトカイン)の総称で、
ギリシャ語のmyo(筋)とkine(作動物質)を組み合わせて作られた造語です。

近年、研究が進み、「運動と健康」の仕組みを解明する
カギとなる物質として注目を集めています。
現在、発見されているマイオカインは数百種類におよびますが、
その主なものを挙げると、

IL-6:糖や脂肪代謝を促し、肥満や糖尿病を防ぐ。

FGF-21:肝臓で脂肪を分解し、脂肪肝を改善。

SPARC:大腸がんの予防。

アイリシン:肥満や糖尿病の予防。

IGF-1:筋肥大の促進、認知症の予防。

BDNF:脳の神経細胞を生育。

アディポネクチン:脂質を分解する。

こうなると、運動しない手はありませんね。
簡単な運動でも、コツコツと継続することが大事ですよ。