東洋医学では、季節が変化するように、
人間の身体も季節に合わせてその状態を変えていると考えます。

太陽の燃え盛る季節であるこの時期、夏は、
体の中でも、火の性質を持つ「心」の働きが盛んです。

「心」は意識や知性など大脳の持つ機能と関係が深く、
生命活動に活発さを与えていきます。
夏には気力が充実して自然と活動性が高まっていくのは、
「心」の働きが充実するからです。

「心」は活動を盛んにさせる性質を持っていて、
東洋医学では「陽」に属するものと考えています。

これは、快活さや躍動の性質を「陽」、
静けさや落ち着きの性質を「陰」とする
中国古来の「陰陽」の考え方に基づいています。

「陽気」という言葉もこうした考えから来ていて、
今はまさに陽気の盛んな季節。
大いに活動するべき季節なのです。

ところが「陽」の性質は燃焼なので消耗を伴います。
この消費を補い「陽」の活動を支えているのが
「陰」の存在です。

木々が茂り、太陽の熱が生命の恵みとなるために、
水が必要なのと同じです。
豊かな水の供給とそれを利用する充実した活動力のふたつが揃って、
はじめて調和のとれた居心地の良い世界がつくられます。

どちらかだけに偏っては、生命は滅んでいくことになります。
人間の身体で「陰」に関わるのは「腎」。
東洋医学で言う「腎」は、生命力を蓄える場所とされていて、
「陰」だけでなく「陽」も「腎」が支えています。

したがって「腎」の充実度は生命力を左右し、
年齢によるさまざまな生体の変化は、
「腎」の勢いの変化と関連付けて理解されています。
このように、「腎」は生命活動の根源に関わる重要な役割を担っているのです。

この「腎」の状態は、特に下半身に現れやすく、
足腰がだるい、痛む、といった症状が加齢とともに出やすくなるのは、
「腎」の勢いが衰えるからです。

「腎」は、足腰を使うことで「陽」が強められ、
十分な睡眠をとることで「陰」が補充されていきます。
足腰を使わず睡眠時間の短い現代生活は、
「腎」を補強する機会が少なく、非常に不利な生活様式です。

陽気の盛んなこの時期は、できるだけ野山に出て、
自然の中に身を置いて、太陽の光に包まれ、
自分の足で大地を一歩一歩踏みしめて、
「心」や「腎」の働きを豊かにする絶好のチャンスです。

「陽」を心地よく消費した後は、
のんびりと宿で夜を過ごして「陰」を補充する。
旅は「腎」の補強には理想的な世界と言えそうです。