ずいぶん寒くなりました。
ずっとマスクをする生活が続いているので、
「かぜの季節ですね」というのが
あまりピンとこない状況になっています。

さて、「かぜ」は漢字で書くと「風邪」と書きますが、
これは中医学の「ふうじゃ」を当てはめたものです。

中医学では、有害な働きかけを「邪」と呼び、
特に外界からの働きかけを「外邪」と呼びます。

細菌やウイルスなどの生物のようなものから
物質、気温、湿度など気候の影響まで含まれ、
これらが身体に侵入しようとしたり、
身体に悪い影響を及ぼしたりすることから始まります。

梅雨のころはどんよりと重苦しい性質をもつ「湿邪」が優勢ですが、
「風邪」はそれとは対照的にふわふわと軽い性質で、
手足のしびれ・震え・かゆみなど体の表面の症状や、
頭痛・鼻水・鼻づまり・のどの痛みなど首から上の症状を引き起こします。

風邪は身軽で動きやすいため、湿邪や寒邪・熱邪などと一緒に侵入してきます。
その影響は、身体の表面から内部深くに順々に及ぶという特徴があります。
皮膚・関節→鼻腔・咽頭→気管・肺胞→粘膜→血中→全身に及び
最後は命を落とすこともありえます。

さて、私たちの身体は、これらをどのように防いでいるのでしょうか。
まずは身体の表面で、「肺」の「衛気」が門番のように常駐しています。
体内への出入り口の開け閉めを調節し、
邪を侵入させないように阻止しているのです。

かぜの予防については、どのように考えるとよいでしょうか。
外邪を浅いところで簡単に追い払えれば
症状はほとんどなく、風邪を引いたことすら気づかないかもしれません。

この状態を目指して、
身体のできるだけ表面で外邪を外に追い返すのが理想です。

「肺」の働きを高めて「衛気」を充実させ、
「肝気」を力強くのびやかにすることで、
攻撃もできる防衛部隊を体表に誘導することができます。

外からの「邪気」に対して、私たちの身体に備わった
身体を守る働きが「正気」です。

この正気を補強するためには、「脾気」を応援することも必要です。
脾気とは胃腸の消化吸収の働きと考えましょう。
暴飲暴食は脾気に無駄な負担をかけてしまいます。

無理して規則正しく食事をすることも負担を強いることになります。
形式的な3食よりも身体が欲しがる空腹感を大切にしましょう。
身体が喜ぶ食事の仕方、つまり、おいしく、楽しく食事することが
風邪予防の基本姿勢なのです。

かぜ初期の外邪との向き合い方はどうしたらよいでしょうか。
「外邪」は、体表から深いところに向かって侵入しようとします。
これを「正気」ができるだけ浅いところで阻止して追い返そうとします。
このぶつかり合いを「邪正闘争」と表現します。

外邪が内側に侵入することで、
邪正闘争による症状がみられます。

体表で闘うと、悪寒や軽い頭痛、関節痛や筋肉痛が現れます。
発熱するのは、闘うことで熱が発生するためです。
じわっと発汗するのは、
体表で外邪を追い払おうとする身体の反応です。

「肺」の発散手段としては、どのようなものがあるでしょう。
鼻から侵入しようとする外邪に対して、くしゃみや鼻水を生じさせます。
表に侵入されると、鼻の奥や扁桃で外邪を留めようとする闘い起こり、
この場所がヒリヒリと痛みます。

気管に侵入されると、咳や薄い痰で追い払い、
さらに深く気管支や肺胞に侵入されると
より深い咳込みで激しく追い払い、
闘った結果生じる粘性の黄色や緑の痰を排除します。

風邪の症状というのは、
外邪が悪さをして作っていると考えられがちですが、
その多くは、外邪と闘うために身体が作っている現象なのです。

これらの症状の持つ意味を考えると
むやみに熱を下げるのは良くないことが分かるでしょう。

こんなかぜの初期に、
身体の働きを応援するよう設計されている漢方薬が
あの有名な「葛根湯」というわけです。