朝晩はまだかなり冷えますね。気温が下がると空気も乾燥します。乾燥した天気が続いて喉の乾燥した状態が続くと、ウイルスや細菌に感染しやすくもなります。

そういう意味で、マスクは役に立ちます。鼻腔や喉を湿った状態に保つことによって、ウイルスや細菌の感染から守るということです。

さて、最近は風邪を引いた後、咳が長引く方が多くいらっしゃいます。咳喘息と診断される方も多いようですね。

かつて、私も風邪をひくと咳が長引いていました。そういう体質なのだ、と思っていましたが、栄養療法の勉強をし、サプリメントでしっかり補うようになってから、風邪をひいてもすぐに治るようになってきました。

クリニックを開業して半年経った頃、かなりひどい風邪を引いてしまいました。咳が3日3晩続き、夜もまともに眠れませんでした。漢方薬をいろいろ飲んでみましたが、なかなか効いてくれませんでした。2週間ほどかかってようやく落ち着きましたが、こんなことでは今後の診療にも差し支えるので、何とかしなければ、とそれまで少しかじっていた栄養療法をしっかりと学びました。そのうえで自分の血液検査結果を見てみると、まさしく現代的な栄養失調でした。

以前のブログにも書きましたが、その頃の私には低血糖症があり、鉄不足、ビタミンB群不足、尿酸値が低く、抗酸化力が低下していると考えられました。抗酸化力が低下しているということは、ビタミンA、E、Cなどが不足していることを意味します。

風邪を予防し、咳を長引かせないためには粘膜を強化することが大切です。鼻や口、喉は外 の世界と直接つながっているため、チリやほこり、ウイルスなどから身体の内部を守らなければなりません。

喉の粘膜はほうきのような線毛で覆われ、ものすごいスピードで動いて異物を追い払おうとしています。この動きがよく分かる映像があるので、ご覧になってみてください。

そしてその表面を粘液が覆っているのです。その粘液の材料がタンパク質とビタミンAです。免疫を高めるビタミンCとともに、敵の浸入から身を守るためのタンパク質とビタミンAは必須の材料です。

私の場合はこれらが不足していたと思われ、これらの栄養素をサプリメントで補うようになってから、咳が出ても長引かなくなりました。

咳が長引いて、現代医学の薬だけでは効かないとき、漢方薬が有効です。それでもなかなか 効かない場合は、栄養不足を考えてみる必要があります。栄養素が足りていないために効く べき漢方薬がうまく効いてくれないこともあるのです。

風邪が落ち着いても乾いた咳だけが続いているとき、よく処方される漢方薬が麦門冬湯です。一般の内科でも、風邪薬と一緒に処方されることが多いようです。

それでは、麦門冬湯はどのように症状を改善するのでしょうか? 麦門冬湯に含まれている生薬の麦門冬は、皮膚だけでなく喉も潤してくれます。

以前、こんな患者さんがいらっしゃいました。痰が絡む咳が続いているけれど、痰をなかなか出すことができない。病院では一般的な風邪 薬を処方され、「水分を多く摂るように」と言われたけれど、水分をたくさん摂ってもおしっこがたくさん出るばかりで、痰はちっとも出るようにならない。そこで、麦門冬湯を処方したところ、痰が楽に出るようになり、咳も治まりました。漢方薬の良いところは、偏っているものを必要なところへ運ぶことができるということです。

西洋の薬は、無理やり止めたり排出させたり、という働きが多いように思います。しかし、そうすると必要なものまで取り除かれてしまう可能性があります。花粉症のときに抗アレルギー剤を使うと、鼻が乾きすぎて困る、というようなことが起きるわけですね。

その点、漢方薬は、必要なものを必要なところへ運んだり、組み立てたり、まるで職人のような働きをします。当然のことながら運ぶ材料は必要ですので、外から補う必要はあります。

乾燥に備えて加湿器を使ったり、洗濯物を室内に干したり、こまめに温かいものを飲むなど、潤いを保つ工夫をしてください。それでも乾燥で喉を傷めてしまったら、麦門冬湯の出番かもしれません。